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2007.01.04

13. 再びあの件。ただしあの件にあらず。

From:
Date: 2 janvier 2007 03:07:29 HNJ
To: monk@zag.att.ne.jp
Subject: 再びあの件なのですが

拝啓 大蟻食様
すでに話題になった事柄ですがもう1度取り上げることをお許しください。ご自身の作品の外国語への翻訳、または外国語での作品発表の件です。
 前回質問のあったときは、実際的なレベルからさらりとかわして答えているような印象を受けたのですが、当方としては勝手に、もっとその気になれば良いのにと思ったり、実はけっこう悩んでるんじゃないかなと邪推したりしているわけです。
 つまり事は、大蟻食氏の何と言うか、我が国読書界におけるポジションの問題に関わっているように思います。とくに「バルタザールの遍歴」をはじめとするあなたの「西洋史物」は、その作品世界の緻密さの点で他の日本人作家が書いた過去のヨーロッパを舞台にした小説とはレベルが違います(ここでこれ以上、誰彼をあげつらうのはやめときましょう)。でもそのポジションは、ちょうど知る人ぞ知る通好みのフランス料理店みたいなもので、評価は高くともそう大勢の多くの客はやって来ないだろう。勿論、大向こうを狙わなきゃだめみたいなことを言うつもりはないのです。でも今度は「メッテルニヒ」伝でしょ。一次史料を読んで注がいっぱいつくライフワークでしょ。これを期に広く読者を開拓したいって欲を出したとしてもごく健全じゃないでしょうか。
 ご自身、語学力はかなりの水準でしょうから、余計慎重になるのかもしれないですね。でも、あなたの作中人物の貴族の表現を借りれば「バイオリンを諦めて」でも取り組む価値があるような気がするのですが。
 「バルタザールの遍歴」を読んでいる最中、私は何度か本をひっくり返して、著者がごく普通の名前の日本人だと言うことを確認して驚きました。ヨーロッパの読者があなたの本をひっくり返して、「この人、どこの人なんだ」って言わせたら愉快じゃないですか。

甚太郎

悩んだのは事実ですが、現在では悟りの境地にあります。十年くらい前、フランスの編集者からは「最低限芥川賞、ないしは大ベストセラーが翻訳の最低条件」と言われ、それにしちゃ高村薫とか訳がないじゃないの(当時。今は知らん)と訊いたら「アメリカの猿真似小説はいらない」と答えられた時には結構うんざりしたものです。村上春樹が一部に熱狂的な読者を持ちながらも日本文学編集者と翻訳家から毛嫌いされていた頃でして、これもまた理由は「アメリカの猿真似小説」だったと記憶しております。何と言おうか、現代社会に生きているフツーの日本人がフツーに抱えている諸問題の表明というのは、フランス人の目から見ると「アメリカの猿真似」であるらしい。いや、あの、じゃあ我々はどんな生活を送ればいいんですかね? 株もインターネット通販もやらず、木と紙で出来た家に住んで、卵の殻のように薄い茶碗から二本の棒を使ってコメを摘んで食えばご満足? ちなみに、そこの会社はフツーに現代の生活を描くフツーの作家の本の表紙に水墨画(いや詳しくはないけど中国のじゃないか、これ)の表紙を付けており、その編集者は私にそれをくれる時「わざとじゃないの、変でしょ、変なのは私も判ってるのよ、でも日本の小説はこうしないと売れないの」と一生懸命念を押しておりました。どうも自分がバカみたいに見えると言う自覚はあったみたい。やれやれ。

その後、辻某の「白仏」がフェミナ賞を取り、アメリ・ノートンの「震えおののいて」がアカデミーの賞を取ったところで、フランスで訳を出すことは全面的に諦めました。何と言おうか、彼らは、バカみたいに見えることは百も承知でも、その手のエキゾチックなイメージを諦められないらしいのですよ。謎と神秘と恐怖に満ちた「微笑みの国」。綺麗な細工物を作る愉快な小人の住む地下の国。まあ、昨今のハルキブームとサブカルブームで事情は幾らか変わりつつあることを希望しますが、あんまり私には関係ないでしょう。たぶんむこうでライトノベルのレーベルが出来て大ヒットを飛ばす日の方が近いよ。

あと、日本文学を積極的に出すマイナーレーベルというのもある訳ですが、こういうところのピックアップ力にもあまり期待はできません。お世辞にも日本語力が高いとは言えないので(ある翻訳者は正直に「粗筋しかわからん」「百ページを越えると読み切れない」と言っておりました。そりゃまあ、粗筋しかわからない状態で二百ページ超はきつかろう)、怒濤のごとき日本の出版物を乱読しては何か見付けて、これいけます、とプッシュしてくれる可能性はあまりにも低い。日本からの提案でそのまま出している、という可能性が大でしょう。つまりは、日本の文壇の力関係の横滑りにオリエンタリズムのフィルターを掛けて出している、というのが現実です。佐藤亜紀が引っ掛かるような状況じゃないね。

以上、フランスにおける状況でございました。その他の国とは交渉もしておりませんが、まあ、大差はないんじゃないかな。

という訳でまず攻略すべきは日本国内である訳ですが、これも残念ながら、私にどうにかできる問題ではありません。本がヒットするか否かは、特に最近では、出版社の販売戦略次第、売りのある作家の作品を大々的にプロモートすれば大ヒットが出来上がるという図式が定着しつつあるのは皆様も御存知の通り(猛烈にシニカルなことを言うなら、昨今では中が全部白紙でも大ベストセラーにすることは可能でしょう。中身なんか書く必要はありません)。作品自体以外に一切売りのない佐藤の仕事がそういう形でプロモートされる可能性は万が一にもありません。売れなくなるからと言う理由で註も索引も省かれる現状で、『メッテルニヒ氏の仕事』がそういう販売戦略に乗って売り出される可能性もまた皆無ですからご安心を。ちなみに完成は2008年上半期、出版は、そうねえ、ウィーン会議二百周年の2014年までには何とかしたいね。

まあ、前回書いたような底意地の悪い悪戯(以上のような状況をお読みになった後では、あれがいかに意地悪かはお判りいただけたでしょう——いやあ、ばれた後でケツ捲ってやったら愉快だろうな)も含め、万事粛々と進めるのが現在の方針でございます。

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