「英国王のスピーチ」を見て来た。大の男が目に涙を浮かべながら歯を食い縛って頑張る様子が、滑稽、でも、女々しい、でもなく、人間的なものとして受け入れられる時代でなければ、この映画はなかっただろう。
マグロ俳優コリン・ファースの独活の大木的に鈍い外見が巧く生かされている。畳針でぐっさり刺しても痛いのかどうかわからないような顔が、絶望にわななき目に涙を浮かべながらも顎を硬く保って限界まで頑張る。普通の男が普通に発揮し得る英雄性の極地、と言おうか。ヒトラーの演説のニュースフィルムを見る場面がいい。
ジョージ五世を演じたマイケル・ガンボンが、死にかけた老人の鬼気迫る耄碌ぶりで、ホグワーツの校長役で溜まった憂さを晴らすかのような名演を見せてくれる。