恐ろしい話を聞いてしまった。あまりにも恐ろしい話なので迂闊には口に出来ないと思ったが、とはいえこういう話は穴を掘ってでもそのなかにぶちまけずにはいられないものなので、故事にならって書いておくことにする。つまりはここがその穴だ。そこから葦が生えて何か囁いたとしても、それは私の関知することではない。
トルコの作家オルハン・パムク氏の最近の日本滞在中のことだ。何社かの新聞社通信社を集めて記者会見をする機会があったとお考えいただきたい。パムク氏はちょっと前にノーベル賞を取った作家であり、もちろん集まった新聞記者たちも各社の選り抜きの文芸ジャーナリストである。で、そのうちの一人がこう質問した。
「あなたの本は日本じゃ全然売れてないんですが、御自分ではどうお考えですか」
いやはや。まさかあんたパムクにまで、次回作はロリロリ萌え萌えのライトノベルなので日本でもベストセラー間違いなしです、ちゃんと「体操」もマスターしましたし、絵師も鋭意選択中なのでご期待下さい、ジャパニーズ・サブカル万歳、とかいう返答を期待してたんじゃあるまいね——そういう洗脳を経てきて、市場に優しいロリ萌えサブカル小説こそ世界文学の最先端だと信じている人であるのはほぼ間違いないとしても。
で、更なる問題は、どことは言わないがこれが、例の「たりたり理論」でロブ=グリエを語っちゃった某社であるらしい、という点にある。同じ人ということはさすがにないと思うけど、もうちょっと人材の選択には気を使った方がいいんじゃないか? 文芸誌は文学の歴史を百年逆行させようと言う一大野心作を堂々と連載させるし、評論家はそこらの本を読むのが大好きですブロガーでさえ恥ずかしくて書けないくらい幼稚な読まず評論を平気で公にするし、おまけに日本を代表する大新聞の文芸ジャーナリストがこれじゃ、むこう十年はまともな文学なぞ隅っこでこそこそ読んだり書いたりするしかないという覚悟をすべきなのかね。
