« 2006.8.22 | Accueil | 2006.8.24 »

23/08/2006

業の深いことよのお、と思わず呟きたくなることがある。何と言おうか、強烈に業の深い人というのが時々いて、こういう人たちは別に何事もなくとも強烈な業深さを漂わせている。で時々、期待に違わぬ業深さを発揮して、何しろ薄々感じていたことではあるから別段驚きはしないものの、強烈な違和感を味わわせてくれる。

知人に、年齢を考えれば驚嘆に値する結構な美人がいた。私より大分年上の人だが、お肌の美しさは格別で、それだけで一種不気味なものさえ感じさせた——何と言おうか、皴ひとつ染みひとつなく、脂も浮いていないのに剥き卵と言うにはあまりにぬるぬるした感じの肌で、それだけで何となくひとつ了解できるものがあった——この人の住んでいる世界は私のそれとは全然違う。何と言おうか、ホルモン全開の人にしか見えない世界の様態というやつがあるのだ。私が業と言ったのは、即ちそれだ。世の大多数にとってどうなのかは知らないが、♀であることが衣食足りた上でのオプションではなく生存の根底に来ているような人が、時々いる。たとえば腹が減っている時、私は一個の胃袋に過ぎないが、彼女はそんな時でも女だ。

で、猫を数匹飼って溺愛していて、格別の管理もせずそこらをほっつき歩かせていた。当然、季節にはごろごろ子供を産む。で、仔猫どうするのよ。すると彼女はするっと言ってのけた——産まれた仔猫は黒ビニールのゴミ袋(そういうものがあった頃の話だ)に入れて口を縛り、金槌で叩いた上、ゴミの日に出すことにしている。

何がどう繋がるのか、と疑問に思う方もいるかも知れないが、これは確実に繋がっている。坂東真砂子氏はその点に確信を与えてくれた。偶々の二例、ということかもしれないが、世の中には、自分のところの猫が充実したセックスライフを行うことを大いによしとしながら——或いはだからこそ——仔猫には一切の頓着がなく無残に殺して捨てる女がいる。本質的に無縁で理解不能なものの不気味さをごくわかりやすく言うなら、その女ぶりは既にこの世のものではなく、ぬちゃぬちゃのぐちゃぐちゃのどろどろの何かよく分からないクトゥルー的なものである。

私は私で、自分の世界観をケモノに投影する。ケモノにとって生とは兎も角飯を食うことだ。クジラが大口を開けて鰯をべろんごっくんしているところを見ると思わず、これだよこれ、と頷いてしまう。ケモノにとっての生が乱闘にあると思う方は、鹿が角突き合わせているのを見て、これこそが大自然の掟だ、と叫ぶだろう。ところで女の業の人にとって〈獣の雌にとっての「生」とは、盛りのついた時にセックスして、子供を産むことではないか〉(坂東氏の問題の文章の一節)ということになる。結論から言うなら、どれも正しい。そしてどれも間違っている。三人が三人ながら、自分の世界観をケモノに投影して見ているだけであって、ケモノ自身が口を開いたら、その主張は我々には理解できないだろう。ただしこれだけは言える——ナチュラルな状態でのフリーセックスと出産の喜びを享受する為に仔猫の虐殺に同意する母猫はまずいない。仔猫殺しが常態となっていたら、母猫にとってはセックスも出産も全くの無駄手間だ。

問題はケモノのあり方ではなく、人間の選択だ。ケモノに人間の都合で避妊手術をするのは身勝手な選択だが、だからというので仔猫を生まれる端から虐殺するのは滑稽で不気味である。外聞は明らかに後者が悪い。個人的には仔猫たちを助けたいと思うが、その選択をタヒチの赤の他人にまで押し付ける権利がないこともまた確かだ。ただ、ひとつだけ引っ掛かることがある。

ぬちゃぬちゃのぐちゃぐちゃのどろどろの何だかよく分からないクトゥルー的な女の業は、古来より女流文学者の得意技であった。と言うか、それをやっている限りは女流文学者は文壇でかいぐりかいぐりして貰えたものだ。坂東氏の小説の背景にあって独特な色彩を作り出してきたのもそうした全く古典的な文学上の趣向の採用である。とすれば、このぬちゃぬちゃの(以下略)的告白もまた、坂東氏の文学的な趣向の誇示に過ぎないのではないか。そうだとすればこれは、命の重みを何と心得る、ではなく、この上なく醜悪な文学者気取りの発露、我々はみんな業深のポーズに釣られただけ、ということになってしまうのだが。


|

« 2006.8.22 | Accueil | 2006.8.24 »

TrackBack

URL TrackBack de cette note:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/65625/11579081

Voici les sites qui parlent de 2006.8.23:

» [芸術]女の業 [あんとに庵◆備忘録]
『火宅の人』という壇一雄の小説がある。まぁ鬼畜な男の生きざまだ。身勝手で弱くどうしょうもなく破滅型の。 火宅の人 (上巻) 作者: 檀一雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1981/07 メディア: 文庫 自伝的小説でもあり、しかし彼の無茶苦茶な生きざまに解放感を覚えるの... [Lire la suite]

Notifié le le 24/08/2006 à 16:34

» 釈然としない×2 [Takano's diary]
其の一 坂東眞砂子の猫殺しエッセイ 友達に教えてもらって新聞の切り抜きを読みまし [Lire la suite]

Notifié le le 25/08/2006 à 01:36

» [社会]「子猫殺し」コラムについての一愚考〜私はこういう人とは関わりは持ちたくない [木走日記]
●「子猫殺し」コラム、掲載紙に抗議殺到  読売新聞記事から・・・ 坂東眞砂子さん「子猫殺し」コラム、掲載紙に抗議殺到  直木賞作家の坂東眞砂子さん(48)が、日本経済新聞の18日夕刊に「私は子猫を殺している」と告白するコラムを掲載したところ、インターネット... [Lire la suite]

Notifié le le 25/08/2006 à 17:42

» 坂東眞砂子さんのコラムのこと [London bridge]
ネットの祭りでは、それまで知らなかった良質のblogが紹介されるから、そこそこ注目している。 祭りをきっかけにブックマークが増えているなぁ。 ついに新聞にも載る騒動になったので、やっと関連サイトを少しだけ見... [Lire la suite]

Notifié le le 26/08/2006 à 02:25

» 坂東眞砂子氏コラム「子猫殺し」関連のまとめ [ハマる生活]
 当ブログ記事は2006/08/18に日本経済新聞夕刊に掲載された 坂東眞砂子氏コラム「子猫殺し」 についての情報を集めるための記事(まとめ記事)である。  問題となった文章の全文紹介、このことについて書かれたブログの紹介、騒動の経過、ニュース、関連リンク集などからなる。... [Lire la suite]

Notifié le le 26/08/2006 à 09:19

» [その他]子猫殺し作家から間合いを取る [やぶいぬ日記]
数日前から一部ネットで炎上している、作家・坂東眞砂子が飼い猫が子猫を産んだら殺しているという件について見解を。一応、たまにセガレ(オカマ猫5歳、キジトラ、体重6kg)をネタにしている身として。 参考サイトは下記のとおり。 坂東眞砂子 - Wikipedia(大荒れで削除... [Lire la suite]

Notifié le le 26/08/2006 à 15:53

» 坂東眞砂子の「三分の理」 [黒猫亭日乗]
友人からこの件を識らされて以来、猫飼いの端くれとして大いに憤りを感じ、日経新聞に [Lire la suite]

Notifié le le 26/08/2006 à 18:56

» 子猫殺しの坂東眞砂子@生とセックス [Muse on Music.]
日経新聞18日付夕刊「プロムナード」に掲載された「子猫殺し」という記事が話題になっている。直木賞怪奇小説家・坂東眞砂子氏のエッセーだ。 「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている。世の動物愛護家には、鬼畜のように罵倒されるだろう。動物愛護管..... [Lire la suite]

Notifié le le 27/08/2006 à 12:05

» 子猫殺し [Studio RAIN's diary]
 坂東眞砂子氏が日経新聞に書いた「子猫殺し」というエッセイが、一部で話題になっているらしい。その内容 [Lire la suite]

Notifié le le 27/08/2006 à 21:08

» 続々・子猫殺し [Studio RAIN's diary]
 この件について、mixi である人と議論した内容を一部転載。長いです (^^)。 確かにこの作家も○○だけど [Lire la suite]

Notifié le le 27/08/2006 à 21:10

» 子猫殺し [TRPG:AG&ETC.]
何故か気が向いて大蟻食先生のサイトを見てみたら、そのような記事が。 なんか世の中騒然らしい。 日経夕刊は取ってないので全然しらなんだ(あるところにはあるがわざわざ持ってこないし…)。 全文は載せるわけにもいかんのでテレコンあたりで確認してください(待てい)。 ということで読んだ前提でぶつぶつと。 論理の流れとしては、全部が全部狂っているというよりは、肝心な一点で踏み外しているという感じ。 原文の順番とは違うが、自分なりに再構成してみると… 1>猫の飼い主は社会的責任として飼えな... [Lire la suite]

Notifié le le 29/08/2006 à 19:39

« 2006.8.22 | Accueil | 2006.8.24 »