Accueil | 衝撃の大スクープ! 佐藤亜紀漫画から盗用     か? »

「宇宙戦争」

スピルバークは偉い。というか、怖い。亭主と一緒に「宇宙戦争」を見に行ったのだが(で、帰って来て確認した限りでは確かに1953年版の「宇宙戦争」に全ては潜在していたと言えないこともない。ヒロインのけたたましい悲鳴は子役が代行する)、スタジアム収容所をニューヨークに再現した(ただしさすがに拷問と銃殺はやっていなかった)「マーシャル・ロー」に非常に良く似た想像力による作品だった。一口で言うなら、突如侵攻してきた軍隊に空爆喰らって逃げ惑って難民化、なのだが、アメリカ人に本土決戦を体験させてくれる軍隊なぞどこにもないから(そういう意味で、この映画は9.11体験のパラノイア的拡大だと、評論家筋なら言うだろう)、宇宙人にご登場願わなければならないことになる。不発弾に群がるアフガン人を彷彿とさせる場面から始まって(平然とそこらに散らばった破片を拾い上げたりする——やめろって、それ、死ぬから)、教会のファッサードだけ残って薔薇窓のむこうから光が差してる、ってのは何だっけ、だし、背後から撃たれながら逃げ惑う群衆の場面には旧ユーゴ紛争中のサラエヴォを思い出す。ご丁寧なことに最貧地区なので住民の身形までそんな感じであり、更にご丁寧なことにハンディカムで撮っている奴がいて、もっとご丁寧なことに撃ち殺される。カメラが残ってたらたぶんCNNが放映するだろう。あとはもう、難民の頭上で建物はがんがん崩壊し、尖塔は世界貿易センターの避雷針そっくりに沈み、高速は阪神大震災のようにこけ、走ってる後や脇の奴はしゅぱんしゅぱん撃たれ、丘を駆け降りれば火炎放射器で掃討され、たぶん宇宙人とは関係のないパニックのせいで死体になって川を埋め尽くし、怪機械に逐われ群衆に押しつぶされそうになりながら桟橋に到達すれば軍隊に乗船を阻止され、無理矢理離岸するフェリーを見送りながら、乗せろのせろと叫んでいれば係留の鎖に引きちぎられたコンクリート製の杭になぎ倒され、船べりにしがみついた連中は喚き、フェリー自体は途中で転覆し(いやもう、「タイタニック」なんてもんじゃない阿鼻叫喚)、命からがら逃げ込んだ家にいた奴は、とっくに気が狂っている。兎も角、戦争に巻き込まれるのはいかに恐ろしいかをこれでもかこれでもかと味わわせてくれるのだが、ボスニアとかアフガンとかイラクとかそれ以前とかの映像の引用から成り立っているせいで、現にこの地上で起こっていることだという強烈な生々しさを感じながら見ることになる。襲撃の前にトライポッドは妙なサイレンのような音を鳴り響かせるが、爆撃経験者であるうちの母親あたりはあの音を聞いたら怯えるだろう。怪光線にぶち抜かれると(「プライベート・ライアン」なみの音立てて飛んでくるからね、怪光線)人体のみが消えて衣服が宙に舞うのだが、これは、何といおうか猛烈に、トラウマ的だ。というか、ホロコースト博物館の遺品展示で正気度を一気に20くらい下げたことのある大蟻食には、かなりきつかったし、亭主にもきつかったようである。子供には見せたくない。

そして何より恐ろしいのは、このスピルバークの映画が、ヒロイズムほぼ抜き(トム・クルーズは群衆の中の小さな顔にすぎない)、ストーリーもほぼ抜き(逃げるというベクトルさえあればストーリーは不要だ)の戦争と大量死を完全無欠なスペクタクルに仕上げてしまっていることだ。というか、無辜の民が無意味に虐殺されていく光景が、トラウマ的なだけにかえって魅力的な、戦きながらもうっとりと見入る他ない見世物になっていることであり、人間が無頓着に処理されて行く終末の<美しさ>にうっすら涙さえ浮かびかねない代物に仕上がってしまっていることなのである。道を埋め尽くす難民の目の前で(トム・クルーズの顔は最前列の群衆に小さく埋もれている)踏み切りが下り、炎上した暴走列車が通過するところで、私はかなり困惑していた。本当にいいのか。これで。

ともあれ、微温的ファミリームービーの代名詞になりかねなかったスピルバークおじさんの到達点が「宇宙戦争」だったというのは恐ろしい話だ(よく考えれば宮崎駿だって、ジブリの宮崎おじさんながら、破壊と大量死のマエストロだ)。この先はない、と信じたいが、こんな光景を娯楽映画に仕上げて受け入れさせることが可能だった以上、更に先も可能なのだと思うと本当に怖い。かつて、その後にはいかなる芸術も野蛮でしかないと言われた二十世紀の無意味な死を、我々は美的なものとして完全に消化してしまった。テクノロジーと美学に歯止めが利かないのは本当だが(つまり、マッドサイエンティスト同様にマッドな表現者がこの世には存在して、止めようと禁じようと、恐るべき領域を開拓していってしまう)、もはやストーリーもヒロイズムも必要としない(家族の絆だのなんだのは商業映画の枠に留めるための蛇足である)、つまりは人間の存在を問題の中心から弾き出した、虐殺と大量死のスペクタクルを、こんなに進化させてしまってどうするつもりなのか。

|

Accueil | 衝撃の大スクープ! 佐藤亜紀漫画から盗用     か? »

TrackBack


Voici les sites qui parlent de: 「宇宙戦争」:

» 『宇宙戦争』 [Under the Hazymoon]
ヒルズで見てきました。SW3とどっちか悩んで、とりあえずこっちから。月曜夜だから [Lire la suite]

Notifié: 2005.08.09 17:35

Accueil | 衝撃の大スクープ! 佐藤亜紀漫画から盗用     か? »